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一人静か

小説
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03/22/22:09  遠い記憶

数年前、風の画家と呼ばれている「中島潔」の個展を初めて観た時の事。ある絵(題・ゆらめき)の前で慶子は釘付けとなり、体が震えだし、止めど無く溢れる涙を抑えることができなくなった。隣のお姉ちゃんとメダカの入った溝の水で汁を作って飲んだ事、穴の開いた木にむしろを敷き秘密基地と名づけ、時々おやつを持って行って食べた事、川の大きな岩の上で孤独を楽しむかのように一人ハーモニカを吹く変わった子供。幼い頃の記憶が走馬灯の様に蘇えってきた。一枚の絵なのに。先日慶子は、夫、雅生が描き上げた絵を見て「遠い記憶」と言う言葉が・・夫婦となり日常生活を続けてゆくには、甘い事ばかり言ってはいられない。時には嵐の夜や、台風も上陸する。しかし、また心がタイムスリップ。この世で一緒になれないなら、せめて、一緒のお墓に入りたいなどと、演歌の詩にでも出てきそうな自分に。「街の灯りは雨上がりの湿った影色のむこうでぼやけて浮かび、川面を伝う五月の風は草々の青い香りを乗せて真夜中の静寂の中を過ぎてゆきます。人の気配の消えた夜更けには心の底から君に会いたいと思う。目も鼻も、唇もふくらんだ耳たぶの柔らかさも、手の温もりも、白い指も爪も、全て記憶した筈なのに。ふくよかな胸に体をあずける安らぎも、やさしい肌の官能も憶えている筈なのに。全て心許して身をゆだねてくれる君の愛の強さは知っている筈なのに。それでも、会いたいと思う。心の中で抱きすくめる君の残像はすぐに逃げてゆく。静かな夜の河原に出ると、君のことを思ってみる。心苦しく、つらくそれでも幸福な時間・・・」理屈っぽい雅生から、昔もらった手紙を読み直す。
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