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一人静か

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04/12/21:57  キュウリグサ ・ 1話

菜々子と一彦はこの春で付き合い初めてもう5年になる。高校を卒業して最初に入った会社で営業部員だった彼が、新入社員となった菜々子に「映画を見に行かないか?」と声をかけ、若さに映画好きが手伝って、軽い気持ちで応じてしまい何となく始まった付き合い。燃えるような恋をしたわけでもなく、「赤い糸で結ばれていたのね。」と思ったこともない。今では菜々子にとって一彦は、もう倦怠期夫婦のような関係になってしまっていた。色々な所に遊びに連れて行ってくれたり、一人暮らしでバランスの取れた食事もしていないだろうと料理までしてくれる優しい男だけれど、この人と一生添い遂げる自信はもう失せてきていた。付き合い始めた頃は運動神経抜群でバック転や大車輪を軽々こなし、ルックスもまあまあ、背も高くおまけに歌までうまい一彦に菜々子もゾッコンだったが、5年という月日が菜々子の心を冷静にさせていた。「何かが違う。」一彦と一緒にいると確かに楽しいし、6歳年上という事もあってか喧嘩になる事も殆どないが、会話に深みと広がりが感じられない。その事が気になりだして、菜々子の方から何度か別れを口にした。しばらくは会わないでいるのだが、「お前のことがどうしても忘れられない。」そう言われて抱きすくめられると、情にほだされてまた同じ事を繰り返してしまう。そんな優柔不断な自分が嫌いでしかたがなかったが、一人になる寂しさと周りの友達がどんどん結婚していく焦りも手伝って自分を許してしまっていた。そんな時一彦が急に「旅行に行こう。3日間九州で遊んでこようよ。」別に行きたくない理由も見つからず、何となく付いて行ってみたものの、どこかしらけた心は隠せない。一彦が自分に気を使っていたのは良く分かっていたので、時々はしゃいで見せていた。二人で旅館の庭を散歩していると、庭の片隅に菜々子の1番好きな草が生えていた。「一彦見て、これ私の1番好きな草なの。」そう言い、奈々子は忘れ名草を小さくした様な紫色の可愛い花を付けた草を差し出した。「ふ~ん、ただの草じゃん。まるで宝物でも見つけたみたいだね。」久しぶりの嘘のない笑顔を一彦は茶化した。そんな二人を後ろで見ていた白髪の老紳士は、「その草、キュウリグサと言うのですよ。揉んでみなさい、キュウリの匂いがするでしょう。揉むとキュウリの匂いがする事から名ずけられたんでしょうね。」何とも穏やかな物言い。菜々子は自分しか知らないと思っていた草の名前を知っているその人の目をじっと見つめていた。その時「ザワザワ」庭の向こうにある竹やぶが大きく揺れた。
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